「従業員クチコミレポート」 責任者に聞く、事業の可能性と今後
オープンワークは昨年4月、「従業員クチコミレポート」の提供を開始しました。OpenWorkに掲載された社員のクチコミデータを分析し、組織風土を可視化することで、企業の組織課題の解決支援を目指すサービスです。
サービスの意義や今後の可能性について、事業責任者であり、執行役員の栗本廉に聞きました。
クチコミから「企業が把握できない課題」が見える
編集部)
人的資本経営の重要性が高まるなか、組織課題の可視化はますます必要とされています。従業員のエンゲージメントや課題を測る調査、サービスはすでに多くの企業で導入されていますが、「従業員クチコミレポート」にはどのような特徴があるのでしょうか。
栗本)
「従業員クチコミレポート」はOpenWorkに寄せられたクチコミをAIで分析・スコア化することで、従業員の本音をベースに企業の組織風土を可視化するレポートです。
具体的には、組織課題となりがちな「組織文化」「働きがい」「働きやすさ」の3項目でスコアを出しています。良い評価と悪い評価のクチコミをAIが自動で判別しており、客観的な視点が入るのもポイントですね。
これらのスコアについて、時系列で見た推移や、東証プライム・スタンダード上場企業の平均スコア、競合企業のスコアと比較を確認することも可能です。
また、クチコミにどのようなワードが多く寄せられているのか、「ワードクラウド」で可視化することで、より具体的な課題や特徴を視覚的につかむこともできます。
忖度のない本音を、一歩踏み込んだ施策のヒントに
編集部)
企業が抱える課題もさまざまです。クチコミという、実際に働いた経験に基づくリアルな声や忖度のない本音をどのように活用していただくことを想定しているのでしょうか?
栗本)
想定する顧客は、企業の人事部をはじめ、組織改善をミッションとする部門や担当者です。特に、従業員の働きがいやエンゲージメントを向上させるためにサーベイやアンケートなどを行い、すでに組織改善に取り組んでいる企業をイメージしています。一歩踏み込んだ施策を行うにあたり、会社主体の調査では見えない部分にヒントを求めている企業にご活用いただいています。
レポートとして分析するにはある程度のクチコミ数が必要なので大企業が中心にはなりますが、日系、外資系、メガベンチャーからの依頼もありますし、業界も多岐に渡ります。
組織改善をさらに一歩進めたい企業からお引き合いをいただいているので、元々のスコアが高い企業も多いですね。
編集部)
「会社主体の調査では見えない部分」は、具体的にはどういう情報がありますか?
栗本)
例えば、退職理由が挙げられます。レポートは本音で書かれたクチコミを元にしているからこそ、企業がなかなか引き出せない本当の退職理由が見えてきます。
実際に「自社で実施したアンケートとレポートで、退職理由に大きなギャップがあった」という声も導入企業から寄せられていますね。
編集部)
ほかに、導入企業から寄せられた声や反響について教えてください。
栗本)
ある大手メーカー様の場合、「新卒・中途で比べると、中途からの評価の方が低いのではないか」「若手社員のモチベーションが下がっているのではないか」といった仮説をお持ちでした。
実際に従業員クチコミレポートで新卒・中途別、年代別のデータを見たところ、新卒・中途に関しては思っていたほどの差はありませんでした。一方、年代別では予想通り20代のスコアに課題があることが分かりました。
このように、仮説と分析結果を照らし合わせながら組織改善につなげていただいています。自社で行うエンゲージメントサーベイなどの調査結果のセカンドオピニオンとして、まずは分析内容を客観的な指標として捉えていただきたいですね。
すでにレポートを元に経営陣へ働きかけ、組織の行動変革につなげつつある企業も出てきているので、今後が楽しみです。
前例がなく、競合がいない大変さも
編集部)
ところで、従業員クチコミレポートはどのような経緯で生まれたのですか?歴史を知らないメンバーも少なくないかもしれません。
栗本)
2019年ごろにさかのぼるのですが、採用支援サービス「OpenWorkリクルーティング」の契約企業に対し、OpenWorkのサイト上で簡易分析ができる機能が元々ありました。これをもっと充実したものにできないかという構想が始まりです。当時は営業・開発リソースの両面から断念しました。
そこから数年が経ち、人的資本情報の開示義務化によって、OpenWorkのスコアを開示する企業が少しずつ増えていきました。信用リスク・企業分析に優れたクレジット・プライシング・コーポレーション社から共同開発・販売という形でレポートを展開できないか打診をいただき、開発がスタート。私が2023年9月に入社し、事業責任者として引き継いだ時点では、従業員クチコミレポートのベータ版ができたところでしたね。
ベータ版も分析の元となるデータ自体は同じですが、顧客となる人事の方により分かりやすい内容となるよう、クレジット・プライシング・コーポレーション社と分析内容を精査し、データ分析のテストを進めながら作り直していきました。
編集部)
その過程で苦労したことはありますか?
栗本)
ベンチマークがないことです。サービスに前例がなく、競合もいないので、参考にする対象がありません。ゼロから自分で考え、分析のアウトプットを議論して作り上げる必要がありました。
編集部)
前例がないという意味では、リリース後に販売をする難しさもありそうですね。
栗本)
そうですね。比較対象がないので、価格の判断もお客さまによってさまざまでした。安いと言う企業もあれば、価格の妥当性を判断できず稟議が降りない企業も。
また、従業員クチコミレポートをどう生かせばいいか、前例がない分イメージがわきにくいという課題もわかりました。そのため現在レポートをお渡しする際に、結果の読み解き方や分析結果を解説する説明会を行うようにしています。
企業のクチコミと業績の関係性
編集部)
2024年4月のリリースから約9カ月がたちますが、手応えはどうですか?
栗原)
PMF(プロダクトマーケットフィット。商品やサービスが特定の市場に受け入れられている状態)はできているかなと思います。法務やアナリスト、エンジニアなど、これまでもさまざまな部署と連携してきましたが、今後はリクルーティングチームとの連携を深め、営業先を増やしていく予定です。
また、秋には日本の人事部「HRアワード2024」の組織変革・開発部門で最優秀賞を受賞しました。サービスの独自性や、定量的に人的資本のスコアが見られる点を評価していただいたそうです。サービスリリース初年度での受賞は珍しいようで、反響も大きく、ありがたいですね。
とはいえ、完成度はまだ30%ぐらいです。レポートという形式を見直す可能性もあり、より良いアウトプットを検討中という意味では道なかばですね。
編集部)
さまざまな企業の従業員クチコミレポートを目にする中で、新たな発見もありそうですね。
栗本)
一例として、外部機関との共同研究によってクチコミと企業の業績の関係性が見えてきました。2021年に発表された論文は、社員の「働きがい」や「働きやすさ」の改善が、企業業績や株式のパフォーマンスにプラスの影響を与えることを明らかにしました。
こういった関連性はレポートの分析を進める中で他にも見えてくるのではと期待しています。分析データは豊富にあり、まだまだ可能性を秘めていると思いますね。
また、世の中で言われる「いい会社」が必ずしもスコアが高いとは限らないのは面白い発見でした。一般的に大企業の方がしっかりしているイメージがありますが、スタートアップなど規模が比較的小さい企業でも評価が高いケースは珍しくありません。
編集部)
栗本さんはどのような会社が「いい会社」だと思いますか?
栗本)
何かしら尖ったところがあり、それによって従業員が魅力を感じている会社でしょうか。
もちろん、レポートのスコアは全部が高いのが理想的ですが、実現するには相当な投資が必要であり、実際にできている企業はほとんどありません。
そういう意味で、最終的に全てのスコアを上げる前段階として、まずは限られたリソースで強みを伸ばすことが大事なのかなと思います。
「良い会社に人が集まる」を実現するために
編集部)
オープンワークは「ひとりひとりが輝く、ジョブマーケットを創る。」をミッションに、ジョブマーケットの変革に挑戦しています。従業員クチコミレポートの普及は、そこにどうつながっていくでしょうか?
栗本)
クチコミデータを自社の組織改善につなげる意識を持つ企業が増えることで、よりフェアなジョブマーケットが生まれると考えています。
働きがいを表す従業員エンゲージメントに関して、残念ながら日本は世界最低水準です。それがジョブマーケットの現在地。
一方、従来は一般的だった年功序列や終身雇用は変わりつつあり、新卒採用市場は売り手市場になるなど、会社と個人がお互いに選び合うような社会の変化もあります。
それに対し、これまで当社は一般ユーザー向けにOpenWorkを展開してきましたが、今後は「より良い会社に人が集まる」状態を実現すべく、企業に従業員クチコミレポートを提供していきたいと考えています。
企業が各種データから現状を把握し、スコアが低いところを中心に組織改善を行い、スコアやクチコミが改善され、ユーザーから選ばれる会社に変革する。人事領域でデータ活用をする企業はまだまだ少ないですが、そのサイクルを従業員クチコミレポートによって促したいですね。
「従業員クチコミレポート」については、ビジネス映像メディア「PIVOT」の当社スポンサード動画、日経新聞電子版との連動企画もご覧ください。
・PIVOT「【社員のホンネが企業を動かす】従業員クチコミサイト『OpenWork』」
・日経新聞電子版「新時代の経営戦略 企業価値向上、カギは『クチコミ』」